難病なう〜不治の病と共に生きる

【転倒】

〔転倒が大げさな事に〕

先日,定期診察を受けに熊本大学病院に行きました。とても体調が良く,
「今日の検査はスムーズに進みそうだな」
と思いながら,車から降りました。

病院で

考え事をしながら歩き始めた私は,完全に油断していました。第一歩を進めた私の右足のつま先は,地面に引っかかってしまいました。こうなると私を待っているのは転倒です。

難病アミロイドーシスを発症する以前の私なら,軽く膝を曲げ背中を丸め,腕を自分から地面につけてクッションのように使う事で転倒の衝撃を吸収する事ができたでしょう。しかし現実は冷酷です。
現在の私は末梢神経が障害されているため,運動の命令を迅速に伝達する事ができません。あっと思った直後,私の身体は硬直して一本の棒のようになり,何の受け身も取らない形で砂利道に倒れ込んだのです。

なぜつま先が引っかかったのかというのも,症状の一つなのです。私は足首を持ち上げる筋力が衰えているので,足を擦るような格好で歩きます。少しタイミングを誤ると,つま先が床や地面に“刺さる”形になってしまうのです。

車椅子出動

私は駐車場の警備員に抱きかかえられ,車椅子に乗せられて建物内に運ばれました。身体の様々な部分が激しく痛み,診察どころではなくなってしまった事がわかります。
(しかし痛みを感じられるようになった事自体は喜ばしい事なのですが)

入院中に車椅子で移動する私(妻に押してもらいました)

私には看護師が一人専属で付けられ,様々な検査を行いました。いろんな角度からこれでもかというほどたくさん撮られたレントゲンの結果から異常は見られなかったので,大きな怪我ではないという診断が下されて,ほっとひと安心。その後は通常の受診に戻りました。

車椅子に乗って移動しながらの各所受診は,入院時以来ほぼ3年ぶりです。車椅子移動はとても楽で,逆に普段はどれほど頑張って歩いているのかを痛感しました。
と同時に,自分の足で歩かないで車椅子を使うと,それに頼り甘えてしまう自分をも発見しました。いかんいかん,私の場合はやはり自力で歩いてこその闘病なんだと強く思った次第です。

次第に腫れてくる身体

受診時に主治医からは
「これから腫れてくるかもしれません」
と言われたのですが,実際にその通りになりました。次第に痛みが強まり,それに合わせるような形で歩行・移動に困難を伴うようになっていったのです。

帰宅後に裸になって観察したところ,右半身は殆ど傷だらけといっていいほどでした。たかが転倒しただけでこんなになってしまうのかと,難病アミロイドーシスの恐ろしさを再確認しました。

腫れが引いてきた右腕には,紫色の痣が広がっています(少しぼかしました)。

リハビリもストップ

歩くどころか,寝返りを打つ事もままならない日々が3日ほど続きました。家庭内での私の役割=料理作りもお休みです。
まるで映画のアカデミー賞受賞作『レヴェナント〜蘇りし者』の主人公が熊に襲われた後のように,布団にくるまりじっとして過ごしました。

動く事をストップすると,途端に体調が悪化するのも,難病アミロイドーシスの恐ろしいところ。起立性低血圧の症状はどんどんひどくなり,最低血圧は20台にまで低下。半ば意識を失った状態で半日以上を過ごすことになってしまいました。

一大決心

これではいけない,私は一大決心をして,弾性ストッキングを履きました。これはふくらはぎを締めつけるので血流が足に留まるのを防ぎ,起立性低血圧の症状を緩和してくれるのです。
ただしこの着圧はすごくて,怪我をしている脚に装着すると,酷い痛みが襲います。痛みか,低血圧か。このトレードオフ,私は痛みを取りました。なんとか立ち上がり,リハビリに復帰したかったのです。

弾性ストッキングを履いた直後,私はその痛みにうめき声を上げました。しかし同時に頭が冴えてくるのも感じました。私は脚の痛みに耐えて立ち上がり,家の中を歩き回りました。
最初はふらふらしていた足許も,次第にしっかりしてきます。歩いている間はふくらはぎがポンプのような働きをして血流の循環を促してくれるので,低血圧の症状が収まってくる事が多いのです。

とっさについた右の掌は,破れて出血していました。ようやくここまで治ってきました。

復活

そしてようやく,日常生活が戻って来つつあります。転倒したのは先週の水曜日ですから,回復までにほぼ一週間かかったことになります。
たかが転倒,されど転倒。高齢者の中には転倒が引き金になって寝たきりになり,痴呆が始まる場合も多いと聞きます。私は障碍者ですが,同時に高齢者に近づいてきている事も認識しなければならないと感じた今回の怪我でした。


私には難病アミロイドーシスとの闘いの物語を広めるという使命があります。寝込んでいる場合ではない,そのためには自分の身体を大切に扱わねば!