久留米の講演会にて

【現状維持の辛さと安心感と(後編)】

〔リミットを外れた回復はない〕

コンフォートゾーンの更新を目指す

前編でお伝えしたように,私はコンフォートゾーンを更新すべく努力しました。つまり,

  1. 症状の影響でベッドに横たわり続けるフェーズ
            ↓
  2. 吐き気は伴うが,道具を併用して歩行ができるフェーズ
            ↓
  3. 道具を併用すれば排便も入浴もできるフェーズ
            ↓
  4. 道具を併用せずとも離床して日常生活を送ることができるフェーズ
            ↓
  5. 退院して通常の生活を送ることができるフェーズ
            ↓
  6. 入院加療していたことが周囲に分からないほどに回復して生活を送るフェーズ

という段階をイメージして闘病したのです。

私のチャレンジは成功しました。意識を高く保ち,回復度合を常にプラス評価し続けることによって退院への意欲へと転化させることができたのです。
一度更新されたコンフォートゾーンは,“後戻り”することもありませんでした。

入院中のリハビリ(ベッド上)
指に力を入れるトレーニングに取り組む

厳然たる事実

しかしここに厳然たる事実があります。それは,
《私の症状は一生消えることがない》
という冷厳なものです。

どんなに体調が良く感じても,それが永続することはありません。
起床時に体調が良くても,朝食を摂れば消化活動に身体のエネルギーが割かれて体調は悪化します。食事の量や食べる早さを上手にコントロールできたとしても,その後外出したことで血圧に異常を来すかもしれません。朝からずっと体調が優れていたために油断して水分補給を怠ると,突然脱水症状や味覚異常などに襲われます。そして,排便の異常はいつ我が身を襲うやもしれません。

これらはコンフォートゾーンの更新では対処できないものです。生体肝移植で私は生命を繋ぐことができましたが,後遺症には悩まされ続けるのです。
難病〈家族性アミロイドポリニューロパチー〉や〈生体肝移植術〉について講演会で話すと,良くこういう質問を受けます。それはすなわち,
「身体が痛くない時はいつですか?」
乃至は
「どんな時に身体が痛くなりますか?」
というものです。
それに対する私の答は,
「身体が痛くない瞬間はありません。というより,身体が痛くなかった時代の感覚は既に忘れました」
というものです。

診断書の一部を拡大
〈症状の良くなる見込〉の項目は〈無〉と明記されています

体調と感情の起伏

私は難病患者です。それは一生背負っていくサインです。日々の生活では苦しい状況がデフォルトであり,それを受け容れない限り、気持をポジティブなものに保つことはできません。
「苦しいのは当たり前,今できることは何かにフォーカスしよう」
が,私のコンフォートゾーンなのです。

ですから,体調の波に,感情の起伏が左右されるというレヴェルでは前進できません。どんなに気分が優れなくても,排便が続いたり血圧が30mmHgより下回ってしまっても,そのことで不機嫌になったり気持がネガティブになったりしては,世の光になることはできないのです。

食事も楽しめるようになりました
体調の良い日はお手製のラザニアも食べられます

前に進むのだ

幸いなことに,そんな私の現況を理解し支えてくれる存在が周囲にはたくさん居てくれます。私は安心して
「調子が悪い」
と言いながら,できることのみに集中することができているのです。

しかしこれまた,現在のコンフォートゾーンに甘んじていたら,気持が弱くなってしまうかもしれません。現状維持への安心感に寄り掛かることなく,常に高みを目指していきます。


私は前に進みます。みなさん,変わらぬご支援をよろしくお願いします。

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コメント

    • 森田 悦郎
    • 2019年 12月 04日

    いつも大変なのに、常に前向き。

    • 森田 悦郎
    • 2019年 12月 04日

    久しぶりにパソコンで書いたら、途中で送られてしまいました。済みません。大変なのに、料理をいただき、本当にありがとうございました。運転も、できるとは思うけれど、やめておく、という判断。その気持ち、大事だと思います。できないと思ったら、どんどん周りに頼ってください。家庭のことは無理ですが、それ以外なら、できる範囲で、対応させていただきます。

      • 4690sensei
      • 2019年 12月 04日

      いつもありがとうございます。毎日を楽しく送る秘訣は“頑張り過ぎないこと”,これに尽きると思っています。

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